建築物省エネ法が改正され、新築住宅においても省エネについて建て主への説明が必要となりました。省エネ基準については努力義務。つまりなるべく適合させましょうということです。最近、ハウスメーカー各社、UA値〇〇など目にするようになってきました。設計事務所にとっても説明が必要ということは、設計する家の性能を数値として表す必要があるということ。そこで、我が家の性能がどの程度なのか計算し、省エネ性能についてわかりやすく解説します。
省エネ性能を高めるメリット
そもそも省エネにするといいことあるの?もちろんあります。
地球環境の問題は前提として、各住宅において省エネ性能を高めることで、エネルギーを効率よく使えることと、室内の温熱環境が快適になります。近年温度差によるヒートショックが問題となっています。室内の熱が逃げにくい構造であれば家の中での温度差が少なくなり、事故を未然に防ぐことができます。冷房・暖房を使用しても少ないエネルギーで快適な室温が保たれます。また窓や断熱の性能が高いと結露やカビの発生を抑えられます。
このように生活を快適にすることが一番のメリットだと思います。では具体的に省エネ性能とはどういったものなのか説明していきます。
省エネ基準について
省エネの基準として外皮性能と一次エネルギー消費量の2つがあります。
外皮性能:屋根・外壁・床・窓といった室内を覆うもの
一次エネルギー消費量:暖房・冷房・照明・給湯など設備に関するもの
これらによって達成すべき指標が定められており、一定の性能を確保してエネルギーの消費を抑えましょうというのが目的です。今回は建物に関する外皮性能を調べます。
外皮性能について
外皮性能には2つの基準があります。
①外皮平均熱貫流率(UA):
冬場の熱の性能で室内の熱がどれだけ逃げていくかを表す数値 小さいほど熱が逃げにくい
②冷房期の平均日射熱取得率(ηAC):
夏場の熱の性能で日射によって入ってくる熱の割合 小さいほど熱が入ってこない
どちらも断熱材や窓の性能が大きく影響します。②については加えて軒の出でいかに日差しを遮るかも考慮されます。
最新の省エネ基準(平成28年)においてそれぞれの基準値は
地域区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
①UA | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | - |
②ηAC | - | - | - | - | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 3.2 |
福岡市早良区は地域区分の6になりますので、UA値が0.87、ηAC値が2.8を下回っていれば基準クリアとなります。
いよいよ我が家の性能は?
我が家の断熱材と窓の仕様をご紹介。
場所 | 種類 | 厚さ(㎜) |
床 | A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b | 50 |
外壁 | 高性能グラスウール16K | 90 |
屋根(平屋) | A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種bA | 100 |
屋根(2階) | 高性能グラスウール16K | 180 |
窓 | 高性能ハイブリッド窓 サーモスL ペアガラス |
そして計算結果がこちら
UA値 0.54 < 0.87
ηAC値 2.44 < 2.8 どちらも基準はクリアしてました。
計算結果から分かること
グラフを見ると建物を囲む構成要素のうち、我が家では窓が表面積の9%しかないにもかかわらず、熱の損失が全体の53%とほぼ半分!いかに窓から熱が逃げているかが分かります。木製窓の大開口があるので、ある程度は予想していましたが・・・。内側に障子を入れるとかなり断熱効果が期待できそうです。
この結果から断熱材の性能を上げるよりも窓の性能を上げたり、熱が逃げない工夫をするほうが効果が高いことが分かります。
外皮性能は窓を小さく、建物の表面積を減らす(凹凸がない)ほど高くなります。ですがそれだと閉じこもった家となり開放感や居心地の良さは損なわれます。
高い性能を確保しながら開放的が理想
限られた予算の中、断熱性も大事ですが、耐震性も材料も設備も・・・費用をかけたい部分はたくさんあります。バランスが大切です。建築士としっかりと話し合って、理想に近づけましょう。
ここで一つ注意。高性能・高断熱といった数値はあくまでも設計上の計算結果であって、実際は施工の良し悪しによって性能が発揮できるかどうかが決まります。いくら高性能の断熱材を採用しても、隙間が多ければ断熱効果は大幅に低下します。また断熱材の種類によっても隙間ができやすいものとそうでないものがあります。数値としては同じでも実際の性能としては大きな差があります。設計者による監理(現場チェック)をきちんとしてくれるのか必ず確認しましょう。
性能を追い求めるあまり、閉鎖的で居心地の悪い家になってしまっては、本末転倒です。私たちの設計では性能だけではなく外とのつながりもとても大切にしています。どうすれば居心地が良いか、気持ちが良いかを常に考えています。また、パッシブデザインで自然と上手に付き合う設計を基本としています。理想は高い性能を確保しながら居心地の良い開放的な家です。それを叶えるためにわたしたち建築士がいます。性能だけを注目するのではなく、生活の豊かさや心地良さを忘れないでください。