
建築費の高騰により、新築の住宅を建てるハードルがかなり高くなっていると感じます。
少しでもコストを抑えたいと考える中で、質も大切と思われる方もいるでしょう。
安い材料を使ったり、短期間で工事が終わればもちろん費用は抑えられます。
でも20年、30年、もっと長く暮らし続ける住まいにとって大切なことは何でしょう?
それは快適な環境と、長寿命、そして価値の変わらないデザインです。
これらを実現するために欠かせないのが自然素材の家なのです。
快適な環境とは適度な湿度やきれいな空気、やわらかい光など五感で感じる心地良さ
長寿命とはメンテナンスの要不要を含め長持ちすること
価値の変わらないデザインとは流行りによるものではなく、古くなっても価値のある長く愛着を持てるデザインのことです。
自然素材の家をおすすめする理由とはどんなものなのか詳しくご説明します。
もくじ
- ①快適な環境をつくる自然素材の機能性
- 空気の質を良くする機能
- 木の香りによるリラックス効果
- ②長寿命な素材とメンテナンス
- フローリングのメンテナンス
- 無垢材と複合フローリングの違い
- 塗り壁と壁紙
- 耐久性について
- ③価値の変わらない自然素材の美しさとデザイン性
- 不規則が与えるやすらぎ
- やわらかい光と陰影
- 自然素材の生産者のストーリーと環境にやさしいこと
- シラス壁
- 卵のカラを利用した壁材
- 無染土い草の畳
- まとめ
①快適な環境をつくる自然素材の機能性
人が家の中で生活していると室内の空気は汚れていきます。
まずは空気の汚れの原因を整理してみます。
問題 | 原因 |
---|---|
頭が重くなる、痛くなる、何となく息苦しくなる | 人体や燃焼器具から出るCO2濃度の上昇 |
嗅覚的に不快に感じる | 調理時や生活用品などから出る臭い強度の上昇 |
健康を損なう | 人体や燃焼器具から出るCO2濃度の上昇、建材や生活用品から出るVOC濃度の上昇 |
暑いと感じる | 様々な要因で起きる室内温度の上昇 |
結露が発生しやすくなる | 様々な要因で起きる室内湿度の上昇 |
空気を清浄にするために必要なのが換気になります。近年は住宅の気密性が高まり、人体に与える影響がとても大きくなっています。塗料や接着剤に含まれるVOC(有害物質)による健康被害が問題となり、新築住宅において24時間換気の設置が義務化となりました。
ただし家の中隅々まで計算通り換気が出来ているかどうかは分かりません。空気が流れやすい場所とたまりやすい場所はどうしてもできてしまいます。
窓を開ければ換気扇よりもたくさんの空気を入れ替えることができます。でも雨の日や花粉症の人、真夏や真冬の冷暖房期は窓を開けられません。
そこで人にやさしい自然素材をできるだけ使い、室内の空気を清浄に保つ手伝いをしてもらおうという訳です。高気密の今の家こそ、自然素材の持つ力が必要なのです。
空気の質を良くする機能

木材やしっくい・珪藻土などの塗り壁などは目に見えない小さな穴が無数にあります。それにより湿気を吸放出することで、湿度を調整する作用があります。また嫌な臭いを吸着する消臭効果もあり、空気をきれいにするようなはたらきをしてくれます。
木の香りによるリラックス効果
木の香りにはフィトンチッドと呼ばれる物質が含まれており、リラックス効果や免疫力アップなどをもたらします。木が切られて家の材料となっても効果が続くようです。我が家では室内に杉の材料がたくさん使われているのですが、住んでいる人は慣れてしまって普段木の香りは感じません。でも5年経った今でも外から来られた方に木の香りがすると言われます。まだまだ効果が続いているようです。

②長寿命な素材とメンテナンス
永く暮らすためには素材が長寿命であることが求められます。
自然素材と聞くとお手入れが大変なのではと感じる方がいると思います。
でもメンテナンスがいらない=メンテナンスができない ということが多くあります。
メンテナンスができないものは傷が付いたり劣化したら、交換ということになります。
なので長持ちさせるためには長寿命でメンテナンスがきちんとできることが大切です。
そう言うとこまめにメンテナンスなんてできない、面倒だと言われるかもしれません。
メンテナンスの頻度が少ないもの、メンテナンスが簡単なものを選ぶなど
コストを含め最適な材料選びが重要です。
フローリングの寿命の違い

フローリングは大きく2種類あり、左側が複合フローリングで右側が無垢材のフローリングです。複合は薄い木材や木目シートを合板に貼り合わせたもので無垢は木をスライスしたそのままの板です。長寿命なのは断然無垢の方になります。
フローリングのメンテナンス
フローリングにはメンテナンスのいらないウレタン塗装とメンテナンスができるオイル塗装があります。毎日頻繁に通る場所、日が良く当たる窓際などは塗装が薄くなってきやすいのですが、オイル塗装だと気になってきた時に重ね塗りすることができます。
ウレタン塗装で気になることは自分でメンテナンスできないことと、木の肌触りがなくなることです。
ダイニングテーブルに敷く透明のマットを想像してもらうと分かりやすいと思います。
防水性や汚れに強く、木目は楽しめますが、質感はビニールです。木の良さを生かせないため、もったいない。
塗り壁と壁紙
壁紙は貼り替えを前提としたもので、塗り壁は基本的にはずっとそのままです。
もちろん壁紙の方が安いので、使っている家が多いのが現状です。長い目で見て耐久性を考えるなら塗り壁です。お手入れに関しては水拭きできるのでビニールクロスが人気のようですが、そこが重要かどうかは住む人の価値観によって違うのではと思います。
耐久性について
リノベーションで良く目にする光景で、窓枠が木ではなく、シート貼りだったため劣化してめくれていたり、床が複合フローリングでこちらも剥がれて下地が見えていたりと、どちらも安価な材料を使っていたことが原因です。木目調ではなく本物の木を使っていれば問題なかったはずです。
また室内よりも劣化が激しい外部にとって特に重要な耐久性。
やはりポイントは素材の厚みです。
現在主流の屋根材と言えばガルバリウム鋼板です。耐久性が高く軽いの特徴で、私の設計でもほとんどの家で使っています。
ですが厚みはわずか0.4~0.5ミリ。1ミリもないのです。
瓦だと1センチ以上はありますのでその差20倍以上。
重さのデメリットはありますが、耐久性では瓦の方が有利です。

住宅の外壁については塗装が必要なものが一般的で、10年に一度塗り替えが必要と言われています。安くて早いけどメンテナンスが頻繁に必要な素材を選ぶのか、高くて時間はかかるけどメンテナンスのほとんどいらない素材を選ぶかは慎重に考えた方が良いと思います。
③価値の変わらない自然素材の美しさとデザイン性
美しさの感じ方は人それぞれだとは思います。永く暮らす家にとって当然時間と共に古くなっていきます。その古さがみすぼらしく感じられるのか、深みが出て美しいと感じられるかで家の価値が変わります。自然素材の床や壁は適度に光と影があり、落ち着きのある美しさを感じます。
20年・30年と時間が経って古くなっても、嫌な感じではなく、愛着を持てるデザインには自然素材が欠かせません。
不規則が与えるやすらぎ

火のゆらぎや波や風など自然の不規則なリズムにやすらぎを感じます。逆に等間隔だったり同じパターンの繰り返しは幾何学的で冷たい感じがします。木目や石など自然の模様や塗り壁のコテの跡といった人の手がつくったものは良い意味でばらつきやむらがあり、その表情こそが自然素材の良さです。
やわらかい光と陰影
日本は古来より、陰影を愛でる文化です。つやがなく光をやわらかく拡散させるような素材です。逆に西洋では大理石やタイル・金属といったキラキラとした光沢のある素材が好まれてきました。
今の住宅業界においてお手入れのしやすさや見た目のきれいさから光沢のある素材が多く使われています。

しっくいや珪藻土といった塗り壁は表面に微細な凹凸があり、また塗り厚の差やコテの跡などにより光の当たり方で表情が変わります。そのやわらかさやどこか陰りのある素材がわたしたちは美しいと感じ、落ち着きをもたらすのだと思います。
自然素材の生産者のストーリーと環境にやさしいこと
木造の住宅の寿命が30年と言われていたり、CO2の排出量の問題において、私たちができることはエコで長寿命な素材を使い、永く住み続けられる家をつくることだと思います。
でも現状は早くて安い材料が主流で、手間のかかる材料をつくる生産者やそれ扱う職人が減っています。自然素材の家づくりをすることは大切な自然やたくさんの人々を未来につなげることにつながるのです。
そこで普段使用している自然素材を一部紹介します。
シラス壁

鹿児島県から宮崎県南部にかけて広がるシラス台地。サラサラした粉状のシラスは、水持ちが悪いため水田には向かず、豪雨の際に土砂崩れを引き起こすなど、地元では厄介ものとされてきました。このシラスの有効活用に成功したのが高千穂シラス壁。
耐久性の高さとやさしい風合いが魅力の自然素材です。
卵のカラを利用した壁材

廃棄される卵のカラを主成分とした壁仕上げ材です。
調湿や化学物質の吸着分解、ペット臭やお部屋の臭いの元となるアンモニア臭の除去など、高い性能を持っています。
また何度でも塗り替えが可能。ローラーで塗れるためDIYでメンテナンスも簡単です。
無染土い草の畳

い草は、香りによるリラックス効果、い草の組織内部のスポンジ構造による湿度調整、保温断熱性、弾力性、空気の浄化性、吸音性、抗菌性などに優れています。
畳が減っていく中、い草農家も激減しています。そんな状況でもこだわりを持ち生産を続けている農家とその魅力を広めている畳屋さんのストーリーは未来に残すべきだと思います。
まとめ
自然素材の家の魅力が少しでも伝わったでしょうか?
コストや時間が少しかかるけど、長持ちして風合いが増す素材。
メンテナンスの考え方や素材の丈夫さなど
健康で快適に過ごすため、永く暮らすため、
自然素材をできるだけ使って家づくりをしませんか?
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